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イチロー引退記者会見

イチローが今年3月に引退したことは知っていました。しかし、引退会見は、今日まで観られていませんでした。

その引退会見を先ほど見て、聞いて、感動しています。放置気味のブログについ即座に書きこみたくなってしまうほどに。

これ、どうして今まで見なかったんだろう!そして、今日見られてよかった!

色々な人に、伝えたいです。これは、とても貴重な会見です。ぜひ、みんな観た方がいいですよ。

 


【全編】イチロー選手が引退会見「後悔などあろうはずがない」(2019年3月21日)

 

感動、感銘のポイントはいくつもありますが、いくつかひも解いてみたいと思います。

向き合ってきた人の言葉

全体を通じて、イチローの言葉、表情、そして語り方から、「ああ、これは本当に向き合ってきた人の言葉だ」と感じました。

イチローが向き合ってきたもの、それはもちろん、野球。そして、絶え間ない練習、プレッシャー、自分の身体、大リーグでの挑戦、、、数しれないものごとに向き合ってきた人なのだと思います。そして、何よりも、それらのすべてを通して、彼は自分自身に、目を背けずに、まっすぐに、向き合ってきた人なんだ、ということを改めて感じました。

自分自身に向き合うということは、弱い心ではできないです。良いときも悪いときも、自分の強さと弱さ、明暗、心身の変化の細部に至るまで、くもりのない目で見つめて、一つ一つに、対処、対応をしていく。

彼はよく自分は天才ではない、と言い、それに対して、いや彼は「努力の天才なのだ」あそこまでの努力を継続できるということは、凡人にできることではないのだ、と言われていますが、努力を継続するというのは、言葉を変えれば、自分に向き合い続けるということだと思います。

言葉に自分をのせる

すべての質問に対して、彼は反応的には、答えない。時々、質問の一部分に対して、質問の途中で軽い冗談のように口をはさんでいる場面はありましたが、そういう場合でも質問の本筋自体をちゃかしたり、交わしたりはせず、まずは質問をしっかりと受け止めて、自分の中にその質問を浸透させてから、自分の内側から言葉を紡ぎだしているように見えました。

ゆっくりの語り口と相まって、大変誠実な答え方に見えました。誠実というのは、先ほど書いたことと重なることですが、必ずしも相手にたいしではなく、まずは何よりも自分自身にたいして、正直で誠実なのだと思います。

そのようにして、いったん受け止めたかみしめた質問に対して、自分の内側から出てくる言葉で答えた回答は、単なる言葉ではなくて、イチローという人間がしっかりとのった、重みのある言葉になっている。

イチローは、軽妙な受け答えやはぐらかしもできる人という印象がありましたが、この記者会見における彼は、質問者の意図も、自分自身の表現も、両方を大切にし、誠実に丁寧に回答していると感じました。

内側に確固たる自分の芯があり、そのまわりで常に思索を巡らせている人でないと、こういう回答の仕方はできないと思います。

野球を通して生き方を描く

彼ほどの一流のスポーツ選手ともなれば、野球選手や野球ファン以外への影響力も大きいため、野球だけでなく、生きていくということの全般に対するメッセージを求められる機会も多くなるのだと思います。この記者会見の中でも、そういう方向性の質問がありました。

しかし、彼は、そういう質問に答えるときも、「自分自身が野球を通して経験したこと」という文脈を、決して外しませんでした。生き方のメッセージを、単なるコメンテーター、アドバイザー的に語ることはしませんでした。野球と、自分と向き合ってきた、イチローが語るからこそ、重みがある。伝わる。彼が自分自身に何度も言い聞かせてきたのだろう思われることがを、メッセージとして、心をこめて、やや目を潤ませながら、自分自身の内側から大切にとり出してきた言葉で語る。

引退会見という大切な機会だからこそ、彼は、この会見の中で、一貫して、そういう姿を見せてくれました。これは、いかにイチローといえども、気軽に頻繁に見せてくれる姿ではないと思います。ですから、この引退会見は、ほんとうに必見なのです。

 

わたし厳選のハイライト

全部見る時間のない方のために、ハイライトを。

 

0:5:56-  子供たちへのメッセージ

「野球だけでなくてもいいんですよね、はじめるものは。自分が、熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げるので。そういうものを早く見つけてほしいと思います。それが見つかれば、自分の前に立ちはだかる壁に向かっていける、向かうことができると思う。それが見つけられないと、壁が出てくるとあきらめてしまうということがあると思うので。まあ、いろんなことにトライして、自分に向くか、向かないか、というよりも、自分が好きなものを見つけてほしいなあという風に、思います。」

 

0:15:15-  肩の力を抜くこと/楽しいか

「子供のころから、プロ野球選手になることが夢で、それがかなって、最初の2年、18、19のころは、1軍に行ったり、2軍に行ったり。そういう状態でやっている野球は結構、楽しかったんですよ。94年、3年目ですね、仰木監督と出会って、レギュラーで初めて使っていただいたわけですけれども、この年まででしたね、楽しかったのは。あとは、なんかね、そのころから急に番付を上げられちゃって、一気に。もう、ずっと、それはしんどかったです。やっぱり、力以上の評価をされるというのは、とても苦しいですよね。

だから、そこからはね、もう、純粋に楽しいなんていうことは。もちろん、やりがいがあって、達成感を味わうこと、満足感を味わうこと、たくさんありました。ただ、じゃあ楽しいか?というと、それとは違うんですよね。でも、まあ、そういう時間をすごしてきて、将来は、また楽しい野球をやりたいなというふうに。これは、皮肉なもので、プロ野球選手になりたいなという夢がかなったあとは、そうじゃない野球を夢見ている自分が存在したんです。でもこれは、中途半端にプロ野球生活を過ごした人間には、おそらく待っていないもの。趣味で野球を、たとえば草野球に対して、プロ野球でそれなりに苦しんだ人間でないと、草野球を楽しむことはできない、というふうに思っているので。これからは、そんな野球をやってみたいなというふうな思いですね。」

 

21:05  この開幕シリーズは楽しかったか

これも純粋に楽しいということではないんですよね。やっぱり、誰かの思いを背負うということは、それなりに、重いことなので、そうやって1打席、1打席立つことって、まあ、簡単ではないんですね。だから、まあ、すごく疲れました。

やっぱり、一本、ヒットを打ちたかったし、応えたいって、まあ当然ですよね、それは。僕にも、感情がないと思っている人がいるみたいですけれど、あるんですよ。意外とあるんですよ。だから、結果を残して、最後を迎えたら、一番いいなと思っていたんですけど、それはかなわずで。それでも、あんな風に、球場に残ってくれて。。。

まあ、そうしないですけれど、死んでもいいという気持ちは、こういうことなんだろうな、というふうに、思いました。死なないですけど。そういう表現をするときって、こういうときなのかなというふうに、思います。」

 

0:24:00-    有言不実行と言葉にすること

「最低50歳までと本当に思っていたし、まあでも、それが叶わずで。有言不実行の男になってしまったわけですけれど。まあ、でも、その表現をしてこなかったら、ここまでできなかっただろうなと思いもあります。だから、言葉にすること。難しいかもしれないけれど、言葉にして表現することというのは、目標に近づくひとつの方法ではないかな、というふうに思っています。

 

0:26:00-  生き方

人より頑張ることなんて、とてもできないんですよね。あくまでも、はかりは自分の中にある。それで自分なりに、そのはかりを使いながら、自分の限界を見ながら、ちょっと超えていく、ということを繰り返していく。そうすると、いつの日か、こんな自分になっているんだという状態になって。だから、少しずつの積み重ねが、それでしか、こう、自分を超えていけないというふうに、思うんですよね。一気に高みにいこうとすると、今の自分の状態とのギャップがありすぎて、それが続けられない、とぼくは考えているので。

まあ、地道に進むしかない。まあ、進むというか、進むだけではないですね。後退もしながら。あるときは後退しかしない時期があると思うので。でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でも、それが正解とは限らないですよね。間違ったことを続けてしまっていることもあるんですけど。でも、そうやって遠回りすることでしか、なんか、本当の自分に出会えないというか。なんか、そんな気がしているので。そうやって自分なりに重ねてきたことを、今日のゲーム後のファンの方の、気持ちですよね、それを見た時に、ひょっとしたら、そんなところを見ていただいていたのかなという風に、それが嬉しかったです。まあ、そうだとすれば、すごくうれしいし、そうでなくても嬉しいです、あれは。」

 

1:20:00-  孤独感、外国人になる体験

アメリカに来て、メジャーリーグに来て、外国人になったこと、アメリカでは僕は外国人ですから。このことは、外国人になったことで、人の心をおもんぱかったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分があらわれたんですよね。この体験というのは、まあ、本を読んだり、情報をとることはできたとしても、体験しないと自分の中からは、生まれないので。孤独を感じて、苦しんだことも多々ありました。ありましたけど、その体験は、未来の自分にとって、大きな支えになるんだろうと、今は思います。だから、つらいこと、しんどいことから逃げたいと思うのは、当然のことなんですけれど、でも、エネルギーのある元気なときに、それに立ち向かっていく、そのことが、すごく、人として重要なことではないか、というふうに感じています。