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辺境を愛する旅人の書

「マダム作戦」と「こじか作戦」

モロッコの生活で、「こじか作戦」発動中で、それが、けっこういい感じです。

これは、海外長期滞在する人、特に私のようなミドルエイジの女性や、もしかしたら、むしろ男性にこそ、おすすめの、地元に馴染んで快適に暮らすための作戦です。

 

「こじか作戦」とは何かをご理解いただくには、それと、対になる「マダム作戦」について、まずご紹介することが、理解の助けとなるでしょう。

「マダム作戦」

約20年前、わたしがシリアでの青年海外協力隊で、はじめての海外生活を始めて間もない頃に身につけたのが「マダム作戦」です。

マダム作戦の説明は、当時わたしが郵便で家族や友達に送った、シリアのニュースレター「シリアの風」からの引用でご紹介します。当時の平和なシリアを思い出して、懐かしくなります。

1996年8月11日付。「シリアの風 No.2」より。)

シリア人のおやじたちには、人のことをじろじろ見てはいけない、というような考えはないようで、道を歩いていれば車の中から、買い物をしていれば町中で暇そうにしているおやじたちが、じーっとこちらを見ています。町中に暇そうなおやじの多いこと多いこと…。悪意の含まれた視線ではなく、純粋に好奇心の固まりのようなので、恐怖を感じることはありませんが、あちらこちらで、「ヤーバーニー?スィーニー?(日本人?中国人?)」と聞かれ、英語が分かる人たちは”Welcome”, “How are you?”, “Hello” “What’s your name?”と、熱烈な歓迎をしてくれます。

来たばかりの頃は、いちいちほほえんだりしていましたが、協力隊の調整員から、「こちらでは、女性は生まれながらにしてマダム(貴婦人)と考えられているので、道で男性が女性に声をかけることは許されないし、女性は他人の前では、ほほえみさえ見せないのだ。シリア人の女性がそうなので、男性の中には、外人女性となら仲良くできると勘違いしている人も多く、女性隊員は、多かれ少なかれいやな思いをすることもあると思う」という話を聞いて以来、「私はマダムよ」とばかりに、街角のおやじたちは、完全無視することにして、ツンツンと気取って、威厳を持って歩いています。

無視されても、別に傷ついたり、怒ったりするような人はいないようです。気にせず、一方的に話しかけてくるし、中には本当にしつこい人もいて、いやになってしまいます。もちろん男性の中にも、親切なジェントルマンもいますが、ジェントルマンはこちらが何も聞いてもいないのに話しかけてきたりはしないものです。先輩隊員の話では、にっこりほほえまれただけで「あの子は僕と結婚したいんだ」と、勘違いしてしまう人もいるそうで、気をつけなければいけません。 

しかし、ほほえんでもいけないというのもなかなか難しい話で、中にはいくら無視しても、毎朝こりずに声をかけてくる人などもいて、この人など見ると、ついついぷっと吹きだしてしまって、マダムもなかなか大変です。」

マダム、行き過ぎるとちょっとさびしくなる。

このマダム作戦は、今でも引き続きとても効果的、というより、今では、すっかり板についてしまって、特に海外で、都会の人通りの多いところを歩くようなときには、基本的に何も考えなくても、自動的にマダムモードが発動します。

すっと背筋を伸ばして、カバンに手を添えて、堂々とまっすぐに前をみて、いかにも目的地がわかっている人のように、スタスタと歩きます。たとえ道に迷っていても、道でガイドブックを開いて、立ちどまったり、キョロキョロしたりはしない。

必要に応じて、さらに「わたしに近づいたら、痛い目にあうわよ」というオーラを醸し出します。これで、声をかけられたり、つきまとわれて、嫌な思いをするというようなことは、確実に減ったように思います。

ところが、海外生活にだいぶ慣れてきた頃になると、マダム作戦を発動していないときでも、旅行者にはみえないからか、はたまた「痛い目にあうわよ」オーラが抜けなくなってしまったのか。他の日本人から、「電車に乗ったら、知らない人に話しかけられて、こんな会話して楽しかった」、なんていう話を聞くと、「えー、いいな、それ、楽しそう。だれも、わたしに話しかけてこないんですけど。。」と、羨ましく、思うようになりました。時には、地元の人、知らない人と交流したり、ちょっとした出会いやハプニングを楽しみたいのにー。

いや、本当の理由は、何よりも、若い女の子ではなく、本当にマダムという年齢になったから、かもしれませんけどね。。。

「こじか作戦」

さて、ここで、ついに、こじか作戦のご紹介です。(長いな・・・)

こじか作戦というのは、「わたしは、ようやく立てるようになった、か弱いこじかなんです、ヨロヨロ」というオーラを、全面的に醸し出すことです。

もちろん、「こじか作戦」も、発動する時と相手は選ぶ必要があって、通りや、見ず知らずの男性の前などで発動するのでなく、職場とか、友だちとか、近所の店とか、それなりに信頼できる相手の前で発動します。モロッコの場合だと、英語やフランス語で話してしまうと、これが発動しにくくなるので、地元のモロッコアラビア語を、未熟で、舌足らずながら話しながら、というのが良いです。

買い物するにも、手続きするにも、「何もわからない、親切に教えてくれないとできない〜」、というのを、ためらわずに前面に出します。でも、全部人に任せる、という感じではなくて、一生懸命、自分で立ち上がろうという姿勢も見せます。

要するに、「こじか作戦」というのは、モロッコの田舎で一人暮らしをはじめようと思ったら、自ずと発生するこの状態を、「マダム作戦」とか、プライドとか、面目ないとかで、隠してしまわず、そのままだしちゃう、ということですね。

すると、こじかのように、かよわく愛らしくみえるから(じゃないかもしれませんが)、いろいろな人が、とても親切に助けてくれます。親切は、ありがたく笑顔で受け取ります。すると、助けてくれた人も、わたしが微笑んだだけで、うれしそうにしてくれます。

こじかのように、非力な自分でも、愛され、可愛がられている、ということを実感することができます。

本当は、東京にいようが、コンサルタントだろうが、企業の管理職だろうが、どこにいても、「こじかのわたし」も、自由に出せたら、良かったのかもしれませんが。。そう簡単には、できないのでした。環境を変えたら、こじかもできるようになりました。

もう、今さら、わたしに、こじかなんて、できないよー、という方にこそ、言葉の自由に通じない場所での暮らし、おすすめいたしますよ。

 

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